ジブリと、ぼくらと。


先日、六本木ヒルズの森美術館で開催されていた

「ジブリの大博覧会」を見てきました。

最新作「レッドタートル ある島の物語」の宣伝イベントなのですが、同会場で

「風の谷のナウシカ」~「思い出のマーニー」まで30年間、24作にわたり、

スタジオジブリが制作してきたアニメーションの制作過程や宣伝に関する各種資料

の展示が行われていました。

 

何の予備情報もなく行ったのですが、日々、広告宣伝物の

企画・ディレクションらしき(?)ことをしている私にとっては、

とても興味深い内容でした。

 

個人的に最も感銘をうけたのが

「あのジブリも、私達と同じことをしている。」ということでした。

もちろん様々な前提条件は異なってはいるのですが、

こと宣伝業務に限っていえば、えらそうですが、

やっていることは、ほぼ変わらないなという印象を受けました。


つまり、

宣伝すべき映画の内容や特徴から

宣伝手法を考え、

必要な媒体を選択し、

宣伝スケジュールを考え、

広告物のクオリティ管理をして、

コピーを考え、

校正をやりとりして、

世の中に発信する。

 

いかがでしょうか?

私達が行っている仕事との違いはありましたでしょうか?

なんだか親近感が湧いてきます。


スタジオジブリのプロデューサーである鈴木敏夫氏は徳間書店が発行している

アニメ情報誌「アニメージュ」の編集者だったのですが、宮崎駿氏、高畑勲氏という

二人のクリエイターとともに

スタジオジブリを立ち上げて後、ジブリアニメをヒットさせるという

命題に向き合いながら

様々な宣伝手法を開発されてこられました。


 ジブリアニメといえば、その作品性の高さはもとより、

・オリジナルの宣伝手法

・タイアップのたくみさ

・その時代に沿った印象的なコピー

が常に話題になりましたが、その宣伝物制作過程はかなり

地味な仕事の連続だったようです。

 

「魔女の宅急便」の名コピー

‐おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。‐

このコピーは糸井重里氏がつくられたものですが、いちばん最初の案は

‐十三歳といっても魔女‐。。。。なんか違う気がします。

その後4案づつ、複数回のやり取りを重ね、最終的には

A:おちこむこともあるかもね。

B:おちこむこともあるけれど、私はこの町がすきです。

C:おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。

に絞り込まれて、BとCが主に使用されたようです。

有名なのはCのコピーですね。

すべて手書きのFAX(!)で行われたやりとりの記録は

エンターテイメントの華やかさとは一線を画した

泥臭い交流の中から名コピーは生まれているのだということを

感じさせてくれました。


 宮崎駿氏はどちらかというと遅咲きのクリエイターといわれています。

「アルプスの少女 ハイジ」や「パンダコパンダ」「未来少年コナン」

「ルパン三世 カリオストロの城」

など、風の谷のナウシカ以前にも代表作は数々あるのですが

視聴率や興行的にふるわなかったため

長い間「干されてきた」存在でした。

絵が古臭いなどと揶揄されたこともあります。

43歳で「風の谷のナウシカ」が認められ、鈴木氏との出会いからスタジオジブリの発足を

経て、「天空の城ラピュタ」や「となりのトトロ」など、

若い頃からあたためてきた企画をようやく

世に発表することができるようになった方です。

そのような背景があればこそでしょうが、鈴木氏は担当した作品の

絵コンテを何度も読み返し、印象的なカットや台詞をノートに書き出し、

同時にライカリールといわれる絵コンテをフィルムのように編集したものを

何十回、何百回と見直して、その本質に迫ろうとします。

また、宣伝計画を立てる前にその作品を生み出す社会的背景や意義

その作品を世に出すことの目的を長文のテキストとして起こしています。


鈴木氏はこのように言っています。

「宣伝とはメディアに広告を出すこと。そう考えている人が多いと思います。

でも、僕にいわせれば、宣伝の本質というのは映画を応援してくれる仲間を

一人ひとり、地道に増やしていく作業なんです。~(省略)~

魔法でも手品でもない。リアリズムの極致です。」

(ジブリの大博覧会 パンフレットより)

 

ひるがえって見たときに、果たして私は本質的な価値を

伝えるための深い思索に基づいた仕事ができているのかを

あらためて考える機会としてみたいと思います。

そのためのコミュニケーションとはどのようなものであるべきかを

常に問い続けながら仕事をしていきたいものです。

 

広告は一瞬の記憶にすぎないものかもしれませんが

その記憶が影響を与え、新たなアクションを始める人もいます。

その意味では私の仕事は発信したものに対して

常に「逃げること」ができない仕事なのだと

最近よく考えています。  

どこかで見たことがあるような。。。。

amuse bouche

湘南ゼミナール 広告宣伝部、広報室のメンバーによる コラムメディアです。 みなさんから 寄せていただいたコラムを 少しづつ、紹介していきます。 日々のクリエイションの中で、 見つけたことや 感じたこと、 考えたことなどを 共有してみませんか。

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